先日、ノーコードジャパン株式会社とNoCodeBASEで共催した、LIVE視聴型ノーコードハッカソンでは、多くのノーコード開発者の方々に参加して頂き、様々なアプリケーションが開発されました。
数多くのアプリケーションの中から「2217いいね」を獲得して最優秀賞に受賞したのは、ベンチ限定のクラウドファンディングサービスである「マチナカベンチ」。
「市中でのベンチを増やし、高齢者の散歩や交流を促すことで、高齢者の孤立を防ぐ」というコンセプトのもとに開発されたマチナカベンチの開発メンバーは、宇都宮大学の学生さん達であり、全員がソフトウェア開発の初心者であったことにも注目が集まっています。
この記事では、マチナカベンチの開発メンバーである飯泉さん、森さん、高木さんに、開発の経緯やマチナカベンチが提案する新しい形の社会参画についてお聞きしました。
・飯泉一馬(いいずみかずま)さん。宇都宮大学工学部電気電子工学科四年。マチナカベンチのPMを担当
・森桐吾(もりとうご)さん。宇都宮大学地域デザイン科学部建築都市デザイン学科四年。マチナカベンチのデザイン担当。
・高木壱哲(たかぎいってつ) さん。宇都宮大学工学部基盤工学科一年。マチナカベンチのWEBデザイン担当。
ベンチを増やして、高齢者の交流の場を
–まずは、今回作成したアプリの概要について教えていただけますか?
飯泉:マチナカベンチには主に2つの機能があります。1つ目は「ベンチ探し」です。Googleマップと地図データを同期して、ベンチが置いてある場所をアイコンで表示させることができます。
ベンチの場所はユーザーの投稿を反映していく形式になっていて、現在あるベンチだけではなく、今後ベンチが設置される予定の場所にも、別のアイコンで表示されるようになっています。
もう1つは、ベンチ設置のクラウドファンディングができる機能です。ベンチを置いてほしいユーザーが支援を募ることで、街に新しいベンチを設置することができます。
–次に開発の経緯について教えていただけますか?
飯泉:宇都宮大学にはU-Labという学生団体があるのですが、私と森は団体内で、Shape Teaというチームを組んでいました。Shape Teaでは、主に空間デザインや家具デザインを行っておりまして、最近では一般社団法人えんがおと共に「えんがおベンチプロジェクト」というプロジェクトに携わっていました。

–「えんがおベンチプロジェクト」とは、どのようなプロジェクトなのですか?
飯泉:「一般社団法人えんがお」は、大田原を中心に、高齢者の孤立をなくそうというコンセプトのもと活動されている団体です。その活動の一環として、街に自由に使えるベンチを増やし、高齢者の方々が気軽に歩き回ることができる街を目指すのが「えんがおベンチプロジェクト」です。
ベンチが増えることで、高齢者の方々が外出しやすくなるだけでなく、地域内のコミュニケーションが増えて、孤立を防ぐ効果も期待できます。
クラウドファンディングでニーズを掴む
–マチナカベンチにはそのような開発の背景があったのですね。
飯泉:はい。しかし、プロジェクトを進めるにあたって、3つの問題が浮上しました。1つ目は、肝心のベンチを置ける場所が見つからないという問題です。街の皆さんのニーズに完璧に答えるのは難しいですし、逆に「家の前にベンチなんて置いてほしくない!」という人も出てくるかもしれません。
2つ目は、ベンチを設置する資金の問題です。ベンチを作るのにもお金がかかるので、その資金をどこから捻出するかという問題があります。
そして3つ目は、そもそも街の人々がどこにベンチがあるのかを把握しきれていないという問題です。我々はベンチを高齢者孤立対策のカギにしたいのですが、そもそもベンチの場所が分からなければ利用もして貰えないですし、ベンチを乗り継いで行くようなお散歩のコースも作りにくいと思います。
–それらの課題に対して、どのようなプロセスで解決策を見出したのですか?
飯泉:これらの問題を解決するのにどうしたらいいかと考えた時に、アプリケーションの力を借りるのが一番いいという結論になりました。アプリ上のマップでベンチの場所が分かれば便利ですし、クラウドファンディングの形式で支援を募れば、ベンチ設置にかかる資金の問題をクリアしつつ、街の人々のニーズに沿った場所にベンチを設置することができます。
そんなことを考えている時に、知人からノーコードハッカソンの話を聞いたというのが、今回参加させていただいた経緯になります。ちょうどウェブ関係に強い高木という優秀な一年生もメンバーに参加したので、この三人で応募させていただきました。
–ありがとうございます。続いて、アプリの開発にあたって何かこだわったことなどがありましたらお聞かせいただけますか?
飯泉:これについては各々あると思うので、森から順にお願いします。
森:私がこだわったのはアプリのレイアウトの部分です。私はどちらかというとベンチなどの実物のデザインをする方の人間で、ウェブデザインに関する知識はあまりないので、アプリの仕組み的な部分というよりは、ユーザーの使いやすさに重点を置いて開発に携わりました。
例えば、屋外でこのアプリを触る人は、スマホを持った手の親指で操作することもあれば、屋内にいる時に、スマホを持っている手とは別の手の人差し指で操作することもあります。
そのように様々なシチュエーションを想定した上で「最も使いやすいレイアウトはどういったものだろう」といった事を考えていました。
高木:私はデザイン面にこだわりました。基本的な部分は飯泉さんが作ってくれたので、私はUIなど、ウェブデザインの細かい部分を担当しました。他のサービスやサイト、アプリなどを片っ端から調べて、どんなデザインが目を惹くかといったことを研究しました。
飯泉:僕は「秘密」のところがこだわったポイントです。
–「秘密」と言いますと?
飯泉:アプリの画面を見ていただけたら分かると思うのですが、右下に「秘密」っていうボタンがついていませんか?
–本当だ、ありますね。タップすると…おお!夜になりました!
飯泉:そうなんです。高齢者の中には、夜風に当たって散歩したい方も多いんじゃないかと思いまして、アプリの背景を昼夜に切り替えることができるようにしました。昼間は普通の人が写っているのですが、「秘密」のボタンで夜にすると、代わりに酔っぱらった人が写っていたりします(笑)
–面白い仕組みですね。
森:実は、この仕組みは締切の前日に突然追加されたものなんです。
飯泉:(笑)
–メンバーの森さんにとっても突然のことだったんですね(笑)。

森:はい。出来上がってきているアプリの画面を見ていたら、締切前日になって急に「秘密」っていうボタンが追加されていたんです。それで「これ何?」って飯泉に聞いたら、「まだ決めてない。明日の内には決まると思う」と…。
–昼夜切り替わる発想が先ではなくて、「秘密」のボタンを作るっていう発想が先だったんですね。
飯泉:制作物にはちょっとした遊び心を入れたくなるんですよね(笑)。でも、一層親しみやすい形になったかなとは思います。他にも、ベンチがある場所に表示されるアイコンを見やすい大きさに調整したり、既にあるベンチとクラウドファンディング中のベンチを区別できるようにアイコンのデザインを分けたりしています。
企画から開発までの期間は1週間
–開発していて大変だったことを教えていただけますか?
飯泉:何より時間がなかったことです。このアプリの制作期間は、構想も含めて1週間くらいでした。
-1週間とはすごいスピード感ですね。
飯泉:まず1日目に、元々活動を共にしていた森とウェブデザインができそうな高木を誘い、アプリの企画をして、2日目に「えんがおベンチプロジェクト」での課題に沿って構想を詰めました。
ノーコードの事も何も知らなかったので、私が3日目と4日目でノーコードを勉強しつつ、森には使いやすいアプリの見た目のデザイン面の勉強をして貰い、高木にはウェブデザインのためにillustratorやFigumaを勉強して貰いました。その後3日間程かけて、3人でガンガン進めて完成させた感じです。結構気合いで乗り切っています(笑)
–凄い…!学生さんならではのバイタリティという感じですね。
森:時間的に大変だったことに加えて、このClickというノーコードツールで「何ができて、何ができないのか」が分からなかったのも、大変だったポイントでした。「こういうのやりたい!」という提案をしても、技術的に難しいという返答が来ることもありまして…。
飯泉:森が、アイデアを思いつくたびに何でも言ってくるので「それはできるけどそれはできない!それもできない!」と延々と返していた感じでしたね。
高木:ツールの限界をどうやって乗り越えていくのかといった点は、難しいながらもやりがいのある部分でした。ツールの制約がある中でも最高の出来のものを作ろうと意識しました。
森:今回のハッカソンでは、他の人たちの開発状況もリアルタイムで見ることができたので「この発想は自分たちのアプリでも生かせないかな」といったことを考えることが出来たのが良かったです。
飯泉:確かに、それはハッカソンならではの良さだったと思います。実際、Googleマップとの連携が出来るというのも、他の方が開発されているのを見て気付きましたからね。
–短期間のうちに、沢山のことを考えて制作されたのですね。最後に、皆さんの今後の展望について教えていただけますか?

飯泉:私は空間デザインをやってきたので、今後は実空間とデジタルが融合したデジタルハブリケーションをメインで取り組みつつ、そこで培ったノウハウとノーコード開発を掛け合わせて、社会提案をしていければと考えています。
森:年内まではShape Teaとしての活動予定が決まっているので、まずはそこに注力しつつも、将来的には、より多くの人に知ってもらえるような活動ができたらいいなと思います。
高木:今回の経験で、ウェブデザインやアプリケーション開発に興味を持つことが出来ましたし、まだ1回生なので、この先もよりアクティブに色々なことに挑戦していきたいと考えています。