昨今、ノーコード開発は大手メディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。
5月に日本初のノーコード開発アプリの買収案件が生まれ話題となりましたが、国内大手ITベンダーもノーコード開発に関するプロジェクトを活発化させており、ベンチャーのみならず、IT業界全体で注目のトピックとなっています。
とは言え、ノーコード開発は過大評価も過小評価もされがちな黎明期にあり、過去の技術と同様に、その活用の仕方を見極める必要があります。
そこで、今回はノーコード開発が注目を集めるようになった背景や有用性に加えて、IT業界や社会にもたらす変化についてまとめました。
ノーコード開発は、近年DX(Digital Transformation)の文脈からも重要なソリューションとなることが期待されており、IT業界に携わる方のみならず、幅広い業界の方にとって注目すべきトピックですので、ご一読頂けますと幸いです。
「なぜ、現代にいたっても、我々はコンピュータの言葉で話さないといけないのか。コンピュータにこそ我々の言葉を話させるべきではないのか」BubbleCEO・エマニュエル・シュウトラフノフ
No Code(ノーコード)とは
ノーコード開発とは、プログラミングを必要としないアプリケーション開発のことを指し、一般的にソフトウェアの開発を容易にする仕組みである高速アプリケーション開発(RAD:Rapid Application Development)の手段として用いられます。
一般的なノーコード開発ツールでは、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)操作によって、視覚的にデータやロジックの設計ができるような機能が備わっています。
近年のノーコード開発ツールは、クラウド環境とDevOps(開発チームと運用チームが密接に連携して開発・運用を推進していく手法)による開発が主眼に置かれており、アプリケーションをクラウド環境へデプロイすることと、より多くのユーザーがシステム開発に携わることを前提としたものが主流になっています。
また、ノーコード開発プラットフォームは、単にアプリケーションを開発するためのツールではなく、開発、実行、運用といったシステムのサイクル全体を包括的にサポートすることを目的に設計されているという特徴があります。
ノーコード開発のメリット
まずは、ノーコード開発のメリットについて紹介します。
①開発スピードの向上
ノーコード開発はプログラミングの作業工程を必要としないため、開発期間の大幅な短縮が見込めます。プログラミングやデータベースの設計といった開発者の能力に依存していた工程を割愛できるため、品質を担保しつつ高速でのアプリケーション開発が可能になります。
②開発・保守・運用コストの削減
前述したように、ノーコード開発プラットフォームでは、開発に加えて保守・運用も包括的にサポートする機能が重視されます。
ノーコード開発プラットフォームを使うことで、アプリケーションのメンテナンスを非エンジニアでもできるようになるため、保守・運用コストの大幅削減が期待できます。
エンジニアも、コーディングのミスやそれに伴うバグの修正といった作業に割いていたリソースを上流工程に再分配することが可能となります。
また、フルスクラッチ開発で外部委託すると、コミュニケーションやリソースマネジメントなどの管理に多くの工数を割く必要が生じますが、ノーコード開発では、これらの労力も最小限に抑えることが期待されます。
顧客のフィードバックをもとに、仕様変更を加えたり、インテレーションする作業もエンジニアの手を借りる必要がなくなります(あるいは大幅に削減できる)。
③DevOpsの推進
ノーコード開発のキーワードであるDevOpsとは開発チーム(「Dev」elopment)と運用チーム(「Op」eration)の隔たりをなくして、蜜に連携して相互協力することでサービスの開発・運用を推進していく手法のことを指します。
近年のアプリケーション開発において、顧客のニーズを正確に把握して迅速に対応することは、そのサービスの成功を左右する最重要な要素であり、DevOpsの開発の重要性はますます高まっています。
例えば、医師、弁護士、会計士といった特定の分野の専門家は顧客の課題と一番近い距離で向き合っているため、開発チームよりも顧客のニーズを理解していることが一般的ですが、開発チームとのコミュニケーションロスはつきものでした。
ノーコード開発プラットフォームを利用することで、運用チームも開発に参加することが可能になるため、DevOps開発の文脈においてもその有用性が期待されています。
近年、ノーコード開発ツールが注目を集める理由
次に近年ノーコード開発ツールに注目が集まった理由について紹介します。
①ノーコード開発の需要の増加
ノーコード開発の需要の増加の要因として、DXの必要性が高まったことが挙げられます。企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、サービスやビジネスモデルを変革していくことが求められるようになったことで、RADやDevOpps開発の重要性が高まり、業務効率を向上させる手段としてローコードおよびノーコード開発の有用性に注目が集まったという背景があります。
低コストかつ短期間での開発は、今後もエンジニア不足に悩む企業の間でより注目を集めることでしょう。
②ノーコード開発の環境の整備
これまでノーコード開発は、ソフトウェアの拡張性やAPIの連携に制約がありソフトウェア開発においては傍流として認識されていましたが、近年、ノーコード開発ツールないしプラットフォームの拡張性が高まり、API機能も充実してきたことで、ローコードに続き本格的なノーコード開発のプロダクトが登場してきたのです。
テクノロジーとそれを取り巻く環境が整備されたこともノーコード開発の活用の後押しとなったと言われています。
ノーコード開発の市場規模
ガートナーは2024年までに、世界で開発されるアプリケーションの65%がローコードあるいはノーコードで開発されると予想しています。
また、米調査会社フォレスター・リサーチによると、2020年のノーコード・ローコードのソフトウェア開発サービスの市場規模は約67億ドルに上り、今後5年間は年率15~25%の伸びが続き、24年には145億ドルになると予測されています。
ノーコードが社会にもたらす変化
ノーコードが一般の人々に与える影響
それでは、これらの有用性を持つノーコードが社会にもたらす変化ついて考えていきたいと思います。一般の人々に与える影響、エンジニアとIT業界に与える影響、企業に与える影響に分けてそれぞれ説明していきます。
①ユーザードリブンのサービスの加速
近年のアプリケーション開発は、仮設・検証・軌道修正を繰り返していくことでよりよいものを作っていくという手法が一般的です。皆さんの使っているアプリケーションも日々、アップデートされ仕様が変わっていくと思いますが、アプリケーションの開発者は、ユーザーの滞在時間やクリック率といった各指標を評価し、日々、改善しているわけです。
しかし、従来、アプリケーションの大幅な仕様変更や軌道修正には大きなコストとリスクを伴うものでした。ノーコード開発を使うことで、より早く、より安く仕様変更や軌道修正を出来るようになれば、ユーザーとの対話が促進し、ユーザー起点のアプリケーション開発が加速します。
また、ピッチの際に投資家からプロトタイプに対するフィードバックをもらい、即日で軌道修正することも可能になります。
これはノーコード開発では珍しいことではなく、日本初のノーコードアプリのM&A 案件となったオンライン就活アプリのSPOTTOもリリース前に何度も軌道修正していたことが知られています。
②プログラミング教育への導入
「小学校プログラミング教育の手引き」によると、小学校におけるプログラミング教育のねらいは、「情報活用能力」を構成する以下の3つの資質を養うこととされています。
・知識及び技能–
身近な生活でコンピュータが活用されていることや、問題 の解決には必要な手順があることに気付くこと。
・思考力、判断力、表現力等
-発達の段階に即して、「プログラミング的思考」 を育成すること。
・学びに向かう力、人間性等
-発達の段階に即して、コンピュータの働きを、 よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養すること。
つまりプログラミング教育の導入は、単にコーディングスキルやプログラミング言語を教えるわけではなく、問題解決のために逆算的に物事を順序立てて解決していくプログラミング的思考を養う事を目的としており、プログラミングを通じて、試行錯誤を繰り返す事で問題解決のための手段を論理的に組み立てていくという教育体験を提供することを狙いとしているのです。
その意味では、プログラミングそのものよりも、ITの素養、ロジックの設計、業務要件の理解、データベース構造の理解などの方がより重要だと言えます。
そのため、AdaloやBubbleといったノーコード開発ツールではこれらの能力が自然と身につき、数日もあれば小学生でもアプリケーションを作ることが可能であるため、今後ノーコード開発ツールの教育現場への導入が進むことが期待されています。
(参考記事:ノーコードが教育に与える影響)
③非エンジニア主導のアプリケーション開発
「エンジニアに依頼せずに、自分の部署の業務を効率化するツールが欲しい」、「こんなアプリがあったら良いな」と着想しても、非エンジニアにとっては、プログラミングスキルを身に付けること自体が学習コストが高いものでした。
現在、プログラミングが出来る人の割合は0.3%と言われています。業務用アプリケーションであれ、toC向けのアプリケーションであれ、より多くの人々がアプリケーション開発に参加できるようになれば新たな視点からのイノベーションが加速することが予想されています。
アプリケーション開発とは、突き詰めて言えば、自分の想像をカタチするという作業ですが、これまでは世界の人口のに満たない0.3%しかいない開発者に委ねられています。
世界中の誰しもがアプリケーション開発に携わることが出来るようになり、自由に想像をカタチにする社会が到来することが、ノーコード開発の真の価値と言えるかも知れません。
(参考記事:No-code, Coronavirus, Call for Code 2020, innovation)
(参考記事:副業で誰もが気軽にアプリ開発!?ノーコード開発の革命)
ノーコード開発がエンジニアとIT業界に与える影響
①アジャイル開発とDevOpsの加速
アジャイル開発は、システムやソフトウェア開発におけるプロジェクト開発手法であり、「あらかじめ全工程の計画を立て、それにに沿って実行していく」というプロセスではなく、開発中に発生する状況の変化に柔軟に対応しながら開発を進めていくという開発手法です。
アジャイル開発では、要件定義、設計、開発、テストのサイクルを高速で繰り返していくため、スピードと柔軟性が求められるスタートアップにおいて広く普及しています。
アジャイル開発は、ビジネスサイドと開発サイドが一丸となり開発を進めていくため、DevOps開発と密接な関係にあり、ノーコード開発ツールはこれらを加速させるツールとしても有用だと期待されています。
「アジャイル開発は、ビジネスにおける意思決定と開発者の溝を埋めたが、ノーコードはビジネスサイドのマネージャーが開発工程においてバリューを生むための助けとなる。」
Jay Jamison Quick Base
②エンジニアの価値の向上
ノーコード開発プラットドームの台頭がエンジニアの価値を下げるのではないかという声もありますが、全くの間違えです。エンジニアはプログラミングをする時間と労力を、UI/UXなどのよりクリエイティブな上流設計に割けるようになります。
プログラミングという単調作業から解放されることは、エンジニアにとっても非常に大きなメリットがあるのです。
さらに、ノーコードは原則としてバグフリーであるため、バグの修正というストレスの多い作業工程から解放されるため、精神的負荷も激減します。
そもそも優秀なエンジニアほどできるだけプログラミングをしたくないと考えるものです。少なくとも、タイピングやバグの修正といった業務が、エンジニアとしての創造性を発揮する瞬間であると考える人はいないでしょう。
ソースコードを書く作業はエンジニアリングのプロセスの一部分にすぎませんが、膨大なリソースを浪費する作業でした。
そもそもノーコード開発ツールは、エンジニアのリソースを無駄な作業から解放するために設計されています。そのため、ノーコード開発ツールがエンジニアから仕事を奪うという扇動は、開発現場を見たことのない評論家の詭弁です。
ノーコード開発ツールとエンジニアの価値の関係を考える時、ワードプレスが参考になります。ワードプレスの登場により、WEBエンジニアはhtmlやcssをベタ打ちから解放され、作業効率が格段に向上しました。
ノーコード開発ツールを使うことで、エンジニアは、システム開発の企画立案やプロジェクトの進捗管理、要件定義といった人間にしかできない創造性のある業務により多くのリソースを配分することが出来るようになるのです。
ワードプレスによって職を失ったというWEBエンジニアがいないように、ノーコード開発ツールがエンジニアの職を奪うという考えには何の根拠もありません。今後、目的に合わせてツールを使いこなす柔軟性がより重要になっていくでしょう。
ノーコード開発によりエンジニアの役割が変遷することは、エンジニアのキャリアを考える上でも重要になトピックになってきています。
(関連記事:ノーコードツールの普及はエンジニアを殺すのか)
③エンジニア不足の解消
わが国におけるIT人材の不足が切迫した社会問題になっていることは周知のことですが、経済産業省「ITベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業」によると、2030年までにIT人材は最大79万人不足すると予測されています。
日本政府は、「高度人材ポイント制による出入国管理上の優遇制度」を制定するなどして、積極的に外国籍エンジニアの誘致を行ってきましたが。実際に、情報通信業の外国人労働者の数は、2017年には5万2000人を超え、十年間で約3倍に増加したものの、現状エンジニア不足を解消するのに十分な数字とは言えません。
エンジニア不足を解決するための極めて現実的な解決策としてもノーコード開発プラットフォームは期待されているのです。
④オフショア開発の逆行と雇用の創出
グローバル化やクラウドビジネスなどの増加・拡大により、人件費の安い東南アジアなどへのオフショア開発も増加傾向にありましたが、フルスクラッチ開発をオフショアに外注することには、進捗状況の管理の難しさやコミュニケーションロス、カントリーリスクといった問題が付随するものでした。
これまで右肩上がりで増加してきたオフショア開発の市場に対してもノーコード開発ツールは大きなインパクトを与えることが予想されています。ノーコード開発ツールにより、非エンジニアでもアプリケーションが構築できるようになれば、これまでオフショア開発に委託していた業務の一部が国内に戻ってくることが予想されます。
⑤システムインテグレーター業者の役割の変化
ノーコード開発ツールによってDevOpsが盛んになることで、これまで、システムインテグレーターなどに開発を外注するスタイルから、ユーザー企業自身が中心となって開発するスタイルが増えていくことが予想されます。
しかし、ノーコード開発ツールと言えども、ツールを最大限に活用する為には、システムエンジニアリングの資質が必要となります。
また、ノーコード開発ツールは、原則としてMVPベースの開発(必要最低限の機能を実装したサービスを開発し、リリース後に改善をしていく開発スタイル)となるため、標準外の、より複雑な要件を実装するためには、個別にプログラミングをすることで対応することになります。それに伴いシステムインテグレーターに求められる役割も変わっていくと言われています。
ノーコードが企業に与える影響
①DXのためのノーコード
日本におけるDXは、経済産業省が2018年に「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン」を取りまとめたことを皮切りに注目を集めることとなりました。
同ガイドラインによれば、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とされており、企業の現行のシステムが老朽化したり、ブラックボックス化している事が、DXを阻害する要因となっていることが指摘されています。
つまり、その場凌ぎのつぎはぎで細かいカスタマイズが加えられていったことで、システムが複雑化、不透明化していき、保守・運用のコストが増大しただけでなく、環境変化や新規事業への対応ができなくなったことが社会問題として指摘されているのです。
これらの問題を解消できない場合、2025年以降、日本経済には年間で最大12兆円の損失につながる可能性があると警告されています。
ノーコード開発ツールは、DXを阻害するこれらの問題に対するソリューションとしても有用だと言われています。
各企業の各部署は、それぞれ特有の課題を抱えており、特有のニーズを満たす業務用アプリケーションが必要とされています。各部署の担当者が自分の業務に必要な業務用アプリケーションをエンジニアに委託することなく、自分達で構築できるプラットフォームがあれば、すべての従業員の生産性を大幅に向上できることに加えて、保守・運用コストが抑制できると期待されているのです。
2020年6月には、兵庫県加古市の職員がサイボウズの提供するノーコード開発ツールkintoneを用いて特別低額給付金のオンライン申請プラットフォームを作成したというニュースが話題になりました。
(参考記事:兵庫県加古川市で特別定額給付金のオンライン申請にkintoneを採用)
そのため、シリコンバレーのテックジャイアントと呼ばれる企業は、DXの観点からもローコードないしノーコード開発プラットフォームの環境構築に力を入れてきました。
Microsoftは、PowerAppsのプラットフォームで、「ツールを手にした全員がアプリ構築者」といったコンセプトの下、ローコードないしノーコードで業務用アプリケーションを構築できる環境を充実させています。
PowerAppsは、その企業に特有の課題を解決するローコードアプリをすばやく作成することで、組織全体の俊敏性を高めることや、開発コストを減らし、業務効率を向上させることに焦点を当てられています。
表現やプロセスの差異こそあれ、GoogleのAppsheetやAmazonのHoneyCodeも、同様のコンセプトの下にノーコード開発プラットフォームの環境を拡充させています。
②アプリケーション開発の内製化の加速
これまで業務用アプリケーションの開発を外注してきた企業が、ローコードあるいはノーコード開発プラットフォームを用いて内製化する動きも活発化していくことが予想されます。
(参考記事:Microsoft Strengthens Its RPA Portfolio With Softomotive Acquisition)
大企業によるノーコードの買収
ノーコード開発が注目を集めるようになり、大企業による買収も盛んに行われるようになったのでその代表的な事例を紹介します。
①Microfot社によるSoftmotiveの買収
Microsoft社は、今年の5月にRPA(ロボットプロセスオートメーション)ベンダーのSoftmotiveを買収しました。 Softmotiveは、複数のアプリケーションを横断して業務プロセスをシームレスに自動化できるローコード開発ツールを提供しており、今後、Microsoft Power Automateに組み入れられ誰でもボットを構築し、タスクを自動化できると言います。
②Googleによるアップシートの買収
今年1月にノーコード開発プラットフォームAppSheetを買収。Google Cloudの1サービスとして組み入れ、同社が提供するその他の業務別ソリューションと統合。
③シーメンス18年に米メンディックス買収
2018年8月、
テックジャイアントによるノーコードの取り組みとノーコード開発の事例
前述したように、GoogleのAppSheet、Amazon のHoneycode 、MicrosoftのPowerAppsといったように、シリコンバレーのテックジャイアントもそれぞれノーコード開発ツールに力を入れていますが彼らの動向で共通しているのは、いずれもビジネス業務向けアプリケーションにフォーカスしているという点です。
テックジャイアントと呼ばれる企業は、これまでインターネット使い情報空間を支配することで現在の地位を築いてきたわけですが、Gsuit、PowerApps、AWSといったビジネスツールの環境構築にも力を入れていきました。
何故、シリコンバレーのテックジャイアントは、ノーコード開発ツールに力を入れているのでしょうか。
ウォールストリートジャーナルによると、2014年から2018年までの間で、世界の大企業が導入するアプリケーションの数は68%増え、平均して129のアプリケーションを導入しているといいます。
また、Pegasystemsの調査では、平均的なビジネスマンは35個のビジネスアプリケーションを併用しており、一日に1000回もアプリケーションの切り替えを強いられていることが明らかになっています。
これだけ多くのアプリケーションを併用し、一日に幾度となく切り替えることは、業務上の無駄であると共に、ヒューマンエラーの原因であることはかねてより指摘されていました。
そのため、あらゆるビジネスツールを統一して一元管理できるプラットフォームを構築することはGoogleやMicrosfot、Amazonのようなテックジャイアントにとっての最重要課題であったのです。
汎用性のあるビジネスツールに加えて、各企業の各部署に必要な特有のアプリケーションを誰でも簡単に作成できるノーコード開発プラットフォームも提供することは、より包括的なビジネスプラットフォームを構築する上で自然な流れだったと言えるでしょう。今後、「ビジネスツールの統合」を巡ってより熾烈な競争が繰り広げられていくことが予想されます。
次にテックジャイアントの提供するビジネス向けノーコード開発ツールを紹介します。
Google「AppSheet」
Microsoft「PowerApps」
Microsoft社は2015年から「ツールを手にした全員がアプリ構築者」といったコンセプトの下、ビジネス向けローコードアプリケーション作成ツールPower Appsを開発してきました。
Power Apps には、キャンバスアプリやモデル駆動アプリ、Visual Agentといった本格的なノーコード開発ツールもラインナップに加わっており、そのテンプレートの豊富さや、ビジネスツールの統合性という点において、一歩抜きんでている印象です。
Amazon「HoneyCode」
AmazonのHoneyCodeもスプレッドシートによる開発モデルを採用しており、社内システムと業務を統合すること目的としています。基本的なタスクのテンプレートが容易されており、スプレッドシートを扱うのと同じ要領でWEBアプリケーションおよびモバイルアプリケーションを開発することが出来ます。
国内企業のノーコードへの取り組みとノーコード開発の事例
近年、国内の大企業もノーコード開発に関して活発な動きを見せています。日本と海外の違いについては、海外ではフリーミアムモデルによって汎用的なプラットフォームを展開する傾向にあり、日本の企業の場合は、会員登録制で特定のニーズに特化型したサービスを展開している傾向にあると言えます。
NTTデータ
NTTデータはグローバルでソフトウェア開発の知識を蓄積し、専門家を育成する「ソフトウエア・エンジニアリング・オートメーションCoE(センター・オブ・エクセレンス)」を6月に設立。ノーコード開発はその中でも中核技術として位置づけられ、スペインのエヴェリス社製の開発ツール「エヴェリスCAD」を使うことが予定されている。
TIS
国内大手システムインテグレーターのTISは、顧客企業に対してノーコード開発ツール「アウトシステムズ」の導入支援サービスを開始。同社はMendixの導入支援もしているほか、Mendixを活用した金融サービス事業者向けサービスソリューション『F-lend』を提供。
SCSK
SCSKは、WEBシステムをノーコード・ローコードで開発できる開発基盤FastAPPを発表。”見える要件定義”と”作らない開発”による超高速開発で高生産性と高品質を実現といったコンセプトのもと、企業向けサービスを開始。その顧客は、アパレルや製造業から監査法人まで多岐に渡る。
伊藤忠テクノソリューションズ
15年より、ローコード開発基盤のアウトシステムズの導入支援を行ってきた伊藤忠テクノソリューションズは、仙台に本社を置くソフト開発のグレープシティが開発した機能拡張ソフトの販売を7月から開始。
キャノンマーケティングジャパン
中小企業や医療機関向けに、商品の出荷や投薬などの照合作業をバーコードの読み取りで管理できる「ノーコード」の情報読み取り端末ハンディターミナルを9月に発売すると発表。
ノーコード開発プラットフォームの数々
ノーコード開発プラットフォームはソフトウェアの開発基盤として、その機能や用途、市場ニッチが大きく異なります。今回は用途別にノーコード開発プラットフォームをまとめたので参考にしてしただけますと幸いです。
(参考:ノーコードカオスマップ)
汎用性アプリケーション開発
Adalo
UI/UXデザインが優れていることが特徴で、日本初のノーコードアプリM&A案件となったオンライン就活アプリSPOTTOもAdaloで開発されています。美しいデザインのネイティブアプリを開発する上で、おすすめのノーコード開発プラットフォームのひとつです。Adaloの使い方に関しては、こちらのチュートリアル記事をご覧ください。
(参考記事:【Adaloの使い方】ノーコード開発ツールを使って無料フードデリバリーサービスを作ってみよう)
Bubble
ノーコード業界を牽引する存在ともいえ、ユーザー数は50万人を超えます。UberEatsをインド市場から撤退させたフードデリバリーサービスのSwiggyもBubbleで開発されています。2020年初頭は、日本でもある種のブームともなりノーコード開発の火付け役ともいえる存在でした。未だに業界の中心的なプラットフォームであるので、今後も要注目のサービスです。
Glide
スプレッドシートを使い、PWAアプリケーションを開発できます。PWA(Progressive Web Apps)は、 Webサイト上でネイティブアプリのような挙動を可能にする仕組みのことで、テンプレートも充実しています。外部データを取り込むときに型指定をする必要がなく、データベース構築の際もスプレットシートを更新するだけで反映されるため、数あるノーコード開発ツールの中でも最も敷居が低いと言えます。非エンジニアの方で自分の業務を効率化させるアプリを手軽に作りたいという方は、Glideから触ってみるのがオススメです。
(参考:Glideで京都の地域共通クーポン取扱店一覧が見れるアプリを作ってみた)
AppGyver
toC向け、toB向けの汎用アプリケーション開発プラットフォーム。
Backendless
ジグゾーパズルを組む感覚でアプリケーションを開発できます。今後、API連携も完全ノーコードで処理できるシステムを実装予定。後発なので知名度は高くありませんが、UI/UXの洗練さは数あるノーコード開発ツールの中でも指折りです。
(参考:Backendless UI Builder「直感的な操作が可能な美しいノーコード開発」)
yappli
日本でも知名度のある老舗のノーコード開発ツールのひとつ。生体認証やAR、QRコードの機能も、外部連携も充実しています。toB向けのノーコード開発プラットフォームとして業界をリードする存在です。
ビジネスアプリケーション開発
PowerApps
あらゆるビジネスツール統合するプラットフォームとしてMicrosoftが近年注力するPowerAppsには、ノーコード開発ツールも充実しています。
AppSheet
Google CloudやG suitとの連携しデータ統合できる点や、これまでGoogleが蓄積してきた機械学習データを使った予測モデルの構築といった点において優位性が際立ちます。
HoneyCode
PowerAppsやAppSheetに比べると出遅れた感は否めませんが、AWSの注力するプラットフォームとして今後が期待されます。
kintone
サイボウズの提供する業務改善ツール。
outsystem
世界中で利用されているモデル駆動型開発基盤のoutsystmは、日本でもRPAのツールとして数多くの導入実績を誇ります。
salesforce
CRMプラットフォームとして世界シェア一位のsalesforceは、顧客管理と従業員管理のためのアプリケーション開発ツールForce.comを提供。
zapier
あらゆるビジネスツールの架け橋となることを標榜するzapierはあらゆる業務を効率化するRPAツールとして数多くの企業で導入されています。
Notion
メモ作成、プロジェクト管理、タスク管理ツールのためのオールインワークスペースを標榜しており、日本でも急速にシェアを拡大しています。
mendix
2005年にオランダで設立された老舗プラットフォーム。2018年にシーメンスにより買収。
Airttable
2020年にGoogleが買収。スプレッドシートモデルで直感的にデータベース構築が可能な開発ツール。一般的な業務はほとんどカバーできます。
Unqork
イスラエル発のノーコードスタートアップ。医療機関や金融機関向けの業務用アプリケーション開発プラットフォームとして注目を集めています。
WEBサイト
WIX、webflow、wordpress、STUDIOなど
WEBサイト構築は、ノーコード開発ツールの激戦区でもあります。現在のところ業界のスタンダードが定まっていない分、進化と変化の激しい分野であると言えます。
(参考:Webflowで作られたスモールビジネスの成功事例6選)
ECサイト制作
BASE、STORES、shopify、MakeShop、Elliot
ノーコードで開発されたアプリケーション
次にノーコードで開発されたアプリケーションの事例について、toB向けとtoC向けに分けてそれぞれ紹介したいと思います
toC向けノーコードアプリケーションの事例
【Swiggy】
インドのフードデリバリーサービスのSwiggyはノーコード開発ツールBubbleによりすべてノーコードで開発されています。UberEatsをインド市場から撤退させたSwiggyの時価総額は1000億円を超え、ノーコードアプリとして初のユニコーン企業として世界に衝撃を与えました。UberEatsのような巨大企業と競合し、撤退させるアプリケーションが短期間で生まれたことはIT業界の在り方を根底から変える可能性も持っています。
【SPOTTO】
オンライン就職活動のプラットフォームのSPOTTOはノーコードアプリとして日本初のM&A案件として話題となったため、名前は知っているという方も多いかも知れません。
【KDDI】
SCSK社の提供するFastAppを用いて、日本全国のCATV事業者と共有する業務連携システムを構築。使い勝手の良いシステムを実現し業務が効率化、ユーザーの満足度向上にも寄与。
今回は、ノーコード開発プラットフォームが社会に与える影響について紹介しました。ノーコードジャパンでは、今後も国内外の最新の動向について配信していきます。
(文・飯倉光彦)